ITSOLEX

OVER VIEW

Project

ネット広告・SNS広告用

Client

アスクハウジング/住宅

Release

2022年7月

Highlights

  • 成約から逆算した三層構造の認知・想起設計 即時予約だけでなく、数年後の比較検討フェーズで「候補の土俵」に残ることを真の目的に定義。認知形成から長期的な想起までを論理的に構造化した、エンジニア視点での広告戦略を構築。
  • ターゲットの心理を射抜く視覚と言語の選択 ファミリー層向けの「温かさ(イエロー)」と、高感度層向けの「洗練(グレー)」の二軸で配色を展開。単なる意匠ではなく、ペルソナごとの行動原理に最適化した設計により、質の高い見込み客を効率的に抽出。
  • プライバシー保護と好奇心を両立する「情報の余白」 住宅写真をあえて水彩画風に加工。施主のプライバシーを保護しつつ、不完全な情報が人の興味を惹きつける心理効果(ツァイガルニク効果)を活用し、実物への好奇心を予約アクションへと繋げる仕組みを実装。
  • 心理障壁とシステム上の制約を両立する広告設計 SNSに馴染むボタンレス設計で広告への警戒心を回避しつつ、0.5秒で理解させるマルチフォーマット展開を実施。無駄なクリックを抑制してコストを最適化し、真に意欲の高い層だけを導く「選別装置」としての広告を実現。

STORY

盛岡市で注文住宅を手がける「アスクハウジング」様。地域に根ざし、一棟一棟に丁寧な想いを込めて家づくりをされている企業です。今回の依頼は、完成見学会への集客を目的としたネット広告・SNS広告用のバナー制作――一見、ありふれたデジタルマーケティングの依頼に思えるかもしれません。

しかし、この「バナーを作る」という行為の背後には、クライアントの真の課題を見極め、それを視覚的な「仕組み」として構築するという、エンジニア的思考が必要でした。広告とは、ただ美しい画像を作ることではありません。それは、限られた予算と時間の中で、最大の成果を引き出すための精密な設計なのです。

真の目的を定義する、エンジニアの視座

クライアントからの最初の要望は、シンプルでした。「完成見学会に人を集めたい。バナー広告を作ってほしい」と。確かに、それは表面的な目的です。しかし、デザイナーの仕事は、クライアントが口にした要望をそのまま形にすることではありません。

私が最初に行ったのは、エンジニアがシステム設計を始める前に要件定義を行うように、「真の目的」を定義することでした。注文住宅という高額商材において、見学会への集客は手段であり、目的ではありません。そして、「今回の見学会に予約してもらうこと」さえも、実は最終目的ではないのです。

真の目的は、その先にある「成約」――さらに言えば、「将来、家を建てようと考えたときに、候補の土俵に上がっていること」です。

これは、注文住宅という商材の特性から導き出された戦略です。もし通販商品やキャンペーン施策であれば、「今すぐクリックして、今すぐ購入してもらう」ことが正解でしょう。しかし、数千万円規模の意思決定を伴う注文住宅においては、アプローチの時間軸そのものが異なります。

注文住宅は、検討期間が数ヶ月から数年に及ぶ商材です。今日バナーを見た人が、明日すぐに契約するわけではありません。しかし、1年後、2年後、「そろそろ家を建てようか」と具体的に動き始めたその瞬間に、「そういえば、あの会社のバナーを見たな」「洗練された家づくりをしていた会社だったな」という記憶が蘇り、比較検討の候補に入る――これこそが、このバナーが果たすべき本質的な役割なのです。

つまり、この広告の成功指標は、次の三層構造で考える必要があります。

第一層:認知の形成

タイムラインに流れるだけで、「アスクハウジング」という社名と「丁寧な家づくり」のイメージを脳裏に刻む。クリックされなくても、この層は達成される。

第二層:即時的な関心の喚起

今まさに家づくりを検討している層に対し、見学会への予約というアクションを促す。質の高い見込み客を、限られた予算で効率的に抽出する。

第三層:長期的な候補入り

今は検討していないが、将来的に家を建てる可能性のある層の記憶に残る。数ヶ月後、数年後の比較検討フェーズで、自然に候補として想起される存在になる。

そして、限られた広告予算の中で最大の成果を得るためには、ただ多くの人を集めるのではなく、第二層と第三層を同時に満たす、質の高い見込み客を抽出することこそが、解くべき課題だと定義しました。

この定義が、以降のすべての設計判断の基盤となります。数を追うのではなく、質と記憶への定着を追う。その思想が、このプロジェクトの根幹です。

ターゲット別の視覚戦略

質の高い見込み客を抽出するためには、まず「誰に届けるか」を明確にする必要があります。注文住宅を検討する層は、決して一様ではありません。そこで、二つのペルソナを設定しました。

イエロー:ファミリー層へ向けた「親しみと温かさ」

子育て世代のファミリー層。彼らが求めているのは、家族の成長を包み込む「温かさ」と「安心感」です。明るく柔らかなイエローを基調とすることで、「ここで子どもが育つ未来」を視覚的に提示しました。色彩心理学において、イエローは親しみやすさと前向きなエネルギーを象徴します。

グレー:高感度層へ向けた「洗練とモダン」

一方で、デザイン性や建築美に敏感な高感度層には、別のアプローチが必要です。落ち着いたグレーを基調とすることで、「洗練」と「モダン」を体現しました。過剰な装飾を排し、ミニマルな美学を貫く。これは、彼らが住まいに求める価値観そのものです。

同じ見学会でも、届ける相手によって最適な視覚言語は異なります。この二つの配色展開は、単なるバリエーションではなく、それぞれが異なるターゲットの心理に最適化された、戦略的な設計なのです。


戦略的な「情報の解像度」

バナーに掲載する住宅のビジュアルについて、本プロジェクトではあえて水彩画風の加工を施す選択をしました。これは、写真という情報量の多い媒体に対し、意図的に情報の解像度をコントロールすることで、今回のプロジェクト特有の課題を解決するためです。

この加工は単なる装飾ではなく、二つの明確な「機能」を果たすための、戦略的な設計判断です。

状況に応じたプライバシー・コントロール

施主様が実際に居住される物件であるという背景を鑑み、今回は「リアリティの最大化」よりも「プライバシーへの配慮」の優先度を高く設定しました。鮮明な写真が持つ情報の詳細さは、時に過剰になり得ます。

水彩画風の加工によって、建物の特定可能な細部を適切にぼかしながらも、住宅の雰囲気や空間の広がり、デザインの方向性は十分に伝わる――この情報密度の最適化が、今回の要件に対する解でした。これは、視覚表現の選択によって倫理的配慮を実装した一例です。

期待値を最大化する情報の「余白」

写真は「答え」を提示しますが、水彩画はユーザーに「想像」を促します。今回のゴールは、画面上で情報を完結させることではなく、実物への好奇心を最大化することでした。

人間の心理には、不完全な情報に対して「もっと知りたい」と思う本能があります。心理学では「ツァイガルニク効果」として知られる現象です。完璧に情報が揃っているものよりも、意図的に欠けた部分がある方が、人は強く惹きつけられます。

あえて視覚情報を抽象化することで、ユーザーの頭の中に理想の家を補完してもらう「情報の余白」を設計する。「この家の実物は、どんな表情をしているのだろう?」という知的好奇心が、ユーザーを見学会予約という次のアクションへと自然に誘導するのです。

これは、情報を「隠す」のではなく、「最適な量だけ見せる」という設計思想です。すべてを明かしてしまえば、そこで完結してしまう。しかし、適切に情報を制御することで、ユーザーの行動を次の段階へと導くことができます。


「脱・広告」のネイティブ設計

デジタル広告の世界では、「CTA(Call To Action)ボタン」は常識です。「今すぐ予約」「詳細はこちら」といった目立つボタンを配置し、ユーザーのクリックを促す――多くの場合、それは有効な手法です。

しかし、今回のプロジェクトでは、SNSタイムラインにおけるネイティブな接触という要件定義に基づき、あえてボタンを配置しない選択をしました。

広告的記号が生む心理的距離

SNSのタイムラインを流れる無数の投稿の中で、人々は無意識のうちに「広告」を識別し、一定の心理的距離を置きます。目立つCTAボタンは、その瞬間に「これは広告だ」というシグナルを発してしまいます。

そして、広告だと認識された瞬間、多くのユーザーは防御的な姿勢を取ります。「売り込まれている」という感覚が、コンテンツへの没入を妨げる。今回のケースでは、この心理的障壁こそが、解決すべき課題でした。

一枚の招待状として設計する

そこで採用したのが、「ネイティブ広告」の手法です。ボタンという広告的記号を引き算し、バナー全体を「一枚の招待状」として設計しました。日付、場所、住宅のビジュアル――必要な情報は美しく配置されているが、強引な誘導は一切ない。

これにより、バナーは一般の投稿に自然に溶け込みます。ユーザーは「広告を見せられている」という感覚ではなく、「興味深い情報に出会った」という体験をします。今回の要件である「SNSでの自然な接触」に対し、この設計が最適解となりました。

質の高いフィルタリングとしての設計

さらに重要なのは、この設計がフィルタリング機能を果たすということです。

目立つボタンがあれば、「とりあえず押してみる」という軽い動機でクリックするユーザーも多く含まれます。しかし、ボタンがない状態で、ビジュアルと情報そのものに惹かれてバナー全体をタップし、さらに遷移先のサイトで予約ページまで辿り着くユーザー――それは、能動的に情報を求める、質の高い見込み客です。

冒頭で定義した真の目的を思い出してください。「成約意欲の高い層を抽出すること」――このボタンレス設計は、まさにその目的を果たすための、意図的な仕組みなのです。

経済合理性と認知形成の両立

ここで重要なのは、「クリックされなくても良い」という戦略的視点です。

デジタル広告の多くはCPC(クリック課金)モデルで運用されます。つまり、クリックされない限り、何万人に表示されてもクライアントの広告費は発生しません。タイムラインに流れるバナーを見て、「アスクハウジング」という社名と「洗練された家づくり」というイメージが脳裏に刻まれる――それだけで、無料の看板広告と同じ価値を生み出しているのです。

さらに、興味のない層からのクリックを抑制することは、クライアントの予算という限られたリソースを、真の検討者だけに集中させることを意味します。これは「クリックの最大化」ではなく、「クリックの最適化」という、より高度な設計思想です。

ただし、ここには繊細なバランスが求められます。あまりにクリック率(CTR)が低すぎると、GoogleやMetaのアルゴリズムが「この広告はユーザーに求められていない」と判断し、表示回数そのものを制限してしまう――いわゆる品質スコアの低下というシステム上の制約が存在します。

そのため、このバナーは「システムと心理のバランス設計」を体現しています。媒体のアルゴリズムを維持するための必要最低限の反応を得つつ、無駄なクリックを極限まで削ぎ落とす。その絶妙な閾値を狙った設計こそが、このプロジェクトにおける最も繊細な調整でした。


システムとしてのマルチフォーマット展開

デジタル広告の配信先は、一つではありません。Google、Facebook、Instagram、Twitter――それぞれのプラットフォームは、異なる画像サイズとアスペクト比を要求します。1:1のスクエア、16:9の横長、9:16の縦長、4:5、さらには1200×628や1080×1080といった具体的なピクセル指定まで、レギュレーションは多岐にわたります。

この複雑な要件に対し、ただ画像を引き伸ばしたり、適当にトリミングしたりすれば、情報が欠けたり、視認性が低下したりします。そこで必要なのが、視覚的アルゴリズムの構築です。

情報の優先順位を定義する

エンジニアがデータベース設計で正規化を行うように、私はまず情報の優先順位を定義しました。

最優先事項は「日時」と「場所」です。これが欠ければ、バナーは機能しません。次に「住宅のビジュアル」、そして「企業ロゴ」と「補足情報」――各要素に明確な階層を設定し、どのフォーマットでも最重要情報が必ず視界に入るよう設計しました。

0.5秒で理解できるレイアウト調整

人がSNSのタイムラインでコンテンツを判断するのに使う時間は、わずか0.5秒程度と言われています。その極めて短い時間で、「これは何の広告で、いつ、どこで、何があるのか」を理解させなければなりません。

そこで、各フォーマットごとに、フォントサイズ、余白、要素の配置を綿密に設計しました。これは、エンジニアがコードの整合性を取るように、視覚情報の整合性を取る作業です。

縦長フォーマットでは、情報を縦方向に展開し、視線の流れを上から下へ誘導する。横長フォーマットでは、左右の空間を活用し、ビジュアルとテキストを並列に配置する。スクエアでは、中央に情報を集約し、四方からの視線を一点に集める。

それぞれの比率が持つ特性を理解し、最適化する。これは、レスポンシブWebデザインにおけるブレークポイント設計と同じ思考です。どのデバイスで見ても、どの画面サイズでも、情報は正しく伝わる――それが、システムとしてのマルチフォーマット展開です。

一貫性と可変性の両立

重要なのは、フォーマットが変わっても、ブランドの一貫性が保たれることです。配色、フォント、トーン&マナー――これらの視覚的アイデンティティは、すべてのフォーマットで統一されています。

ユーザーが異なるプラットフォームで同じ広告を目にしたとき、「これは同じ見学会の広告だ」と即座に認識できる。この一貫性が、ブランドの信頼性を高め、記憶への定着を促します。

可変的でありながら一貫している――それは、優れたシステム設計の本質そのものです。


デザインという名の「仕組み」

完成したバナー広告は今、インターネット上のさまざまなプラットフォームで、その役割を果たしています。イエローとグレーの二つの配色で展開されたビジュアル。水彩画風に加工された住宅の写真。そして、ボタンのない、静かな招待状のようなレイアウト。

それは、ただ「見た目が美しい広告」ではありません。クライアントのビジネス成果――具体的には成約率――から逆算し、閲覧者の行動を論理的にガイドする仕組みとして設計されたものです。

デザイナーの仕事は、クライアントが口にした要望をそのまま形にすることではありません。表面的な依頼の奥にある真の課題を見抜き、それを解決するための最適な手段を設計すること。それは、エンジニアがシステムを設計するのと同じ思考プロセスです。

真の目的の定義。ターゲットに最適化された視覚言語の選択。プライバシー保護と知的好奇心の誘発を両立させた水彩画風加工。広告への警戒心を回避するボタンレス設計。そして、どのプラットフォームでも0.5秒で理解できるマルチフォーマット展開――

これらすべては、「人の心を動かし、確実な行動へとつなげる」という、ただ一つの目的のために統合されています。

アスクハウジング様の「伝えたい」という想い。それを、エンジニア視点での論理的分析と、デザイナーの感性による美的表現で翻訳し、成果につながる「仕組み」として実装する。

盛岡の街を行き交う人々のスマートフォンに表示されるバナー広告。その一枚一枚に、見えない設計思想が宿っています。

GALLERY

PHASE

要件定義
クライアントからの表面的な要望の背後にある真の課題を分析しました。商材特性、検討期間、予算制約、ターゲット層の心理を多角的に検証し、戦略方針を確立しました。
ターゲット分析
ターゲット層の多様性を踏まえ、複数のペルソナを設定しました。異なる価値観を持つターゲットに対し、それぞれに最適化された視覚言語とメッセージングを設計。色彩心理学に基づく配色戦略により、各層の心理に響くビジュアル展開を構築しました。
情報設計
掲載する情報の「密度」と「抽象度」を戦略的に設計しました。プライバシー保護という倫理的要件と、知的好奇心を誘発する心理的効果を両立させるため、視覚情報の解像度を意図的にコントロール。写真の加工手法を選択し、情報の「余白」を設計することで、ユーザーの次のアクションを自然に誘導する仕組みを実装しました。
ビジュアル設計
ブランドイメージとターゲット心理に基づき、配色設計、フォント選択、レイアウト構成を策定しました。素材の加工処理を施し、情報の抽象化と視覚的魅力の両立を実現。複数の配色パターンを展開し、それぞれのターゲット層に最適化されたビジュアルアイデンティティを構築しました。
UI設計
デジタル広告におけるユーザー心理を分析し、SNSタイムラインでの接触体験を設計しました。CTAボタンの有無、情報の配置、視線誘導の設計を通じて、「広告」としての記号性と「コンテンツ」としての没入性のバランスを調整。ネイティブ広告の手法を採用し、心理的障壁を最小化する設計を実装しました。
マルチフォーマット展開
各プラットフォームの多様なレギュレーションを分析し、視覚的アルゴリズムを構築しました。情報の優先順位を定義し、すべてのアスペクト比において瞬時に内容が理解できるレイアウトを調整。フォーマットが変わっても一貫性を保つ、システマティックな展開設計を実現しました。
広告効果の最適化設計
経済合理性を分析し、クリック質を最大化する設計を構築しました。認知形成、即時的関心喚起、長期的候補入りという三層の成功指標を定義し、広告プラットフォームのアルゴリズム制約と費用対効果のバランスを考慮した設計を実装しました。
制作・納品
設計に基づき、各プラットフォーム向けの複数サイズ・複数配色のバナーデータを制作しました。配信仕様に適合したフォーマットで納品し、クライアントが即座に広告配信を開始できる状態まで整備しました。

RECOMMEND