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Highlights
- 法令と美学を両立させる緻密な文字設計 運転代行業法に基づく「5cm角以上」の厳格な規定を、余白設計や端部の微調整によってクリア。法遵守という絶対条件を満たしながら、プロポーショナルな美しさを損なわない独自の文字意匠を構築。
- 背景・時間帯を問わない色彩とコントラスト設計 白い車体に映える「深いゴールド」を選択し、昼夜や天候による光の変化を計算。高い可読性と、お客様の安全を預かる業種にふさわしい品格・信頼感を同時に表現する色彩設計を具現化。
- 過酷な環境に耐えうる7年耐久の素材選定 屋外での常用を想定し、耐光・耐水性に優れた7年耐久シートを採用。色褪せや剥がれのリスクを最小化し、メンテナンスコストの低減と法令上の「固定的表示」としての安定した運用を長期にわたり担保。
- 設計から精密施工までの一貫した品質責任 デジタルデータからの精密な切り出しと、気泡を排した職人的な貼付施工を自ら完結。無数の制約を「思考を研ぎ澄ます砥石」と捉え、法令遵守という義務をクライアントの誇りとなるデザインへと昇華。
STORY
奥州市で地域の足を支える「NEW県南運転代行」様から届いた依頼。それは、随行車に掲示する「標識」の制作でした。一見シンプルに思えるこの依頼の背後には、法令という揺るぎない制約と、その制約の中で最適解を導き出すデザイナーとしての責任がありました。文字を配置する――ただそれだけのことが、法規制とデザインの狭間で深い思考を要する挑戦となったのです。
法令を読み解く、デザインの出発点
依頼を受けて最初に行ったのは、運転代行業法の確認でした。デザイナーの仕事は「美しく見せる」ことだけではありません。クライアントの業種に適用される規則を正確に理解し、法令遵守とデザイン性を両立させることもまた、重要な責務です。
平成28年10月1日施行の告示により、随伴用自動車の表示方法には厳格な規定が設けられていました。マグネット板などの簡易な貼付け、つまり取り外し可能なものは不可。そして、ペンキやカッティングシートによる固定的な表示が求められていました。
さらに重要だったのは、1文字ごとのサイズ規定です。各文字は5cm角以上でなければならない――この一文が、このプロジェクトの核心的な課題となりました。
「5cmの壁」を美しく越える
「5cm角以上」という規定。この一文が、このプロジェクト最大の難題となりました。
想像してみてください。数字の「1」を、横幅も5cmにしてしまったら――。それはもはや文字ではなく、横に太った長方形のような図形になってしまいます。遠くから見たとき、それが「1」だと分かるでしょうか。おそらく、何の記号なのか判別できないはずです。
一方で、「見やすさを優先して細いまま作ろう」と判断すれば、検問で「規定のサイズを満たしていない」と指摘されるリスクがあります。それは、クライアント様に迷惑をかけることになってしまいます。
法律を守るか、見やすさを取るか。私はここで、両方を実現する方法を探さなければなりませんでした。
法律が本当に求めているもの
この法律が求めているのは、「すべての文字を無理やり5cm四方の正方形に広げること」ではありません。その目的は「遠くからでも、運転代行の車だとはっきり分かること」です。つまり、ただサイズを守るだけでなく、きちんと読める文字であることが何より大切なのです。
そこで私が考えたのは、次の三つの工夫でした。
文字の「余白」を含めて5cmにする
「1」という数字は、細い形のまま残します。その代わり、文字の上下左右に余白をしっかり取って、全体で5cm以上の空間を確保する。こうすることで、定規で測れば5cmをクリアしながらも、見た目はスマートな「1」のまま保てます。文字そのものを歪ませるのではなく、周囲の空間をデザインすることで、法規制と視認性を同時に満たしたのです。
文字の端を少しだけ太くする
完全に太らせるのではなく、文字の上端や下端など、測定の基準となる部分にだけ、ごくわずかな「ふくらみ」を持たせます。遠目には普通の美しい文字に見えるのに、実際に測ると規定をクリアしている――まさに「見た目」と「測定値」の両立です。
背景とのコントラストで視認性を確保する
法律が求めているのは、単にサイズの基準を満たすことだけではありません。遠くからでも、はっきりと認識できる視認性こそが本質です。そのためには、背景との色の対比によって文字を明瞭に浮かび上がらせることが不可欠でした。
カッティングシートで実現できること
今回の制作を通じて分かったのは、カッティングシートは「ただ文字を貼るだけの素材」ではないということです。
- 法律や規制がある場合も、美しく対応できる
- 細かい調整で、読みやすさと見た目を両立できる
- 背景の色に合わせて、最適な色を選べる
- 耐久性のあるシートを選べば、7年以上も美しさが続く
耐久性と美しさを兼ね備えた、素材選定
法令に適合する文字設計が完成しても、それをどう車体に定着させるかが次の課題でした。固定的な表示が求められる以上、選択肢は限られます。ペンキによる直接塗装か、カッティングシートによる貼付けか。
私が提案したのは、カッティングシートでした。ペンキに比べて施工の自由度が高く、万が一の修正にも対応しやすい。そして何より、カッティングシートには多様な色と質感の選択肢があり、デザイン性を損なうことなく法令に対応できます。
しかし、カッティングシートならば何でもよいわけではありません。随行車は屋外で日々使用される車両です。紫外線、雨、風雪――過酷な環境下で、標識は常に鮮明でなければなりません。耐用年数の短いシートでは、数年後には色褪せや剥がれが生じ、法令違反の状態に陥る可能性すらあります。これは店舗の看板が古びて色あせてしまうのと同じ現象で、視認性の低下だけでなく、ブランドイメージそのものを損なうことに繋がります。
そこで採用したのが、紫外線耐久7年のシートです。長期にわたって色彩と接着力を保ち、クライアントに余計なメンテナンスコストを負わせることなく、安定した運用を実現する。このプロジェクトで得た「耐久性こそが長期的な美しさを支える」という認識は、以降のすべてのカッティングシート制作における私の判断基準となっています。7年間貼り替え不要ということは、それだけで大きなコストダウンであり、クライアントへの誠実な提案でもあるのです。
白い車体に映える、深いゴールド
素材が決まれば、次は色の選定です。NEW県南運転代行様の車両は、車体を白で統一されています。この白いキャンバスに、どんな色を置くか。
最優先すべきは可読性です。遠くからでも、夜間でも、標識としての役割を果たさなければなりません。黒や濃紺といった高コントラストの色は、確かに視認性が高い選択肢です。
しかし、私が提案したのは深いゴールドでした。白い車体に対して十分なコントラストを保ちながら、ただ目立つだけではない上品さと品格を纏う色。運転代行という、お客様の安全と信頼を預かる業種にふさわしい、落ち着きと洗練を感じさせる色彩です。
「とにかく目立てばいい」という判断で蛍光色を選ぶのは簡単です。しかし、それが業種のイメージに合っているだろうか――このプロジェクトを通じて、私は色選びにおける「視認性」と「ブランド適合性」の両立という原則を明確に意識するようになりました。飲食店なら食欲をそそる色、美容室なら清潔感のある色、法律事務所なら信頼感のある色。業種によって「ふさわしい色」は変わります。この視点は、店舗看板や営業表示など、あらゆる制作において私が必ず立ち返る判断軸となっています。
ゴールドは光の当たり方によって表情を変えます。日中の強い陽光の下では鮮やかに輝き、夜間の街灯に照らされれば柔らかく浮かび上がる。可読性を担保しつつ、デザイン性を高める――この二つの要求を、深いゴールドが見事に満たしてくれました。
色彩設計の原則
- 白×ゴールド
- 高い視認性と上品なコントラスト
- 業種への配慮
- 信頼感と品格を伝える色選び
- 昼夜の表情
- 光の変化に応じた柔軟な視認性
- 環境に最適化する色彩の法則
- 背景・業種・用途によって「ふさわしい色」を見極める
カッティングプロッタによる精密な施工
設計と素材が揃えば、あとは施工です。カッティングシートの施工には、カッティングプロッタを使用しました。デジタルデータから直接シートをカットするこの機械は、手作業では到底実現できない精密さで、複雑な文字形状を正確に切り出します。
細い「1」も、画数の多い「運」も、それぞれの文字が持つ繊細な曲線や文字内部の空間を損なうことなく、一枚のシートから切り出していく。そして、車体に丁寧に貼り付け、気泡を抜き、エッジを密着させる。この一連の工程が、7年の耐久性を支える基盤となります。
施工の精度は、仕上がりの美しさだけでなく、耐久性にも直結します。わずかな気泡や浮きも許されない、職人的な作業。このプロジェクトを通じて私が学んだのは、「どんなに良いデザイン、良い素材を選んでも、施工が雑であれば数ヶ月で剥がれてくる。逆に言えば、丁寧な施工さえ行えば、7年間美しさを保ち続けることができる」という、当たり前だが揺るぎない原則でした。この認識は、店舗看板であれ、車両表示であれ、すべてのカッティングシート制作における私の基本姿勢となっています。
デザイナーとして設計するだけでなく、自らの手で施工まで行うことで、最後まで品質に責任を持つ――それが、このプロジェクトにおける私の姿勢でした。
法令の中に宿る、デザインの誇り
完成した標識は今、NEW県南運転代行様の随行車の車体で、その役割を果たしています。白い車体に映える深いゴールドの文字。それは法令を遵守しながらも、ただの「規則に従った表示」ではなく、クライアントの品格と信頼を体現するデザインとなりました。
デザイナーの仕事は、自由な発想だけで成立するものではありません。法令、予算、素材、耐久性、施工方法――無数の制約の中で、最良の解を導き出すこと。制約は創造性の敵ではなく、むしろ思考を研ぎ澄ます砥石です。
運転代行業法という厳格な枠組みの中で、プロポーショナルフォントの美しさと視認性を両立させた文字設計。7年の耐久性を持つシートと、品格を纏うゴールドの選択。そして、精密な施工による完璧な仕上がり。
奥州市の夜を走る随行車。その車体に掲げられた標識は、法令遵守という義務を超えて、クライアントの誇りとなるデザインを宿しています。
GALLERY
PHASE
- ヒアリング
- 使用車両の仕様(車体色、台数)、運用環境、予算、納期を聞き取り。業種特有の規制の有無を確認しました。
- 法令調査
- 適用される法令および関連告示を精査。表示方法に関する規定(固定的表示の義務、文字サイズ規定など)を正確に把握し、遵守すべき要件を明確化しました。
- 文字設計
- 法定サイズ規定を満たしながら、プロポーショナルフォントの美しさを保つ設計を実施。数字と漢字それぞれの特性に応じて、文字の余白設計、端部の調整を行い、「測定値」と「視認性」を両立させました。
- 素材選定
- カッティングシートの種類(耐久性、色、質感)を比較検討。屋外使用における紫外線耐久性を重視し、長期使用に適したシートを選定しました。
- 色彩設計
- 車体色との組み合わせを考慮し、視認性とブランドイメージを両立する色を提案。昼夜を問わず高い可読性を確保しつつ、業種にふさわしい品格を表現しました。
- データ制作
- Illustratorを使用し、カッティングプロッタ用のデータを制作。文字の輪郭、サイズ、配置を精密に設計し、施工時の精度を担保するデータを作成しました。
- シート加工
- カッティングプロッタを使用し、設計データから直接シートをカット。文字の繊細な曲線や内部空間を損なわない、精密な加工を実施しました。
- 施工
- 車体への貼り付け作業を実施。気泡の除去、エッジの密着など、長期的な耐久性を確保するための丁寧な施工を行いました。施工精度が最終的な品質と耐久性を左右するため、細部まで注意を払いました。



